
佐賀県伊万里市の「おしゃれの店 きしかわ」は過疎地域で、店舗の条件もけっして恵まれてはいないが、母と娘を中心に工場や事業所への訪問販売を行い、化粧品の売上げで全国でも屈指の成績を残してきた。
苦境の続く地方の零細小売り業にとってお手本となる例を紹介する。
佐賀県伊万里市。
江戸時代以来の陶磁器生産の町だ。
かつては伊万里の港からオランダ船が遠くヨーロッパまで日本の陶磁器を運んで行った。
その文化は、ドイツのマイセンやデンマークのロイヤルコペンハーゲン、イギリスのウエジウッドなどにも影響を与えた。
しかしいま伊万里は、人口減少と衰退に悩む。
高齢化も進み、一般の商店が繁盛するのは並大抵のことではない。
ところが、である。
母と娘、従業員合わせて4人で佐賀県のカネボウ化粧品チェーン店の売上トップを何年も続け、全国でも上位に食い込むという「超優良店」が伊万里市中心部からもかなり離れた場所にあることを地元の人も知らないはずだ。
「同じグループの方が各県から見学にいらっしゃるんですが、えっ、このお店で、と絶句して帰られるんです。なにしろ開店から34年ほとんど手をかけていない老朽化したマーケット内にあるテナントですから、皆さんが驚くのも無理はないんです」
と、経営者の重岡雅子さんと娘さんの日浦祐子さんは笑う。
ほとんど店の前を通行する人もいない環境だからこそこの「おしゃれの店、きしかわ」は徹底した外販、つまり「外に売りに行く」ことで活路を拓いてきたのである。
「小学生の頃から、車のタイヤがへこむくらいにたくさん化粧品を積んで、昼前に店を出て、『ただいま』と充実感あふれた顔で夕方帰ってくる母の顔を見て育ちました。お客さんの顔を見るだけで、どの化粧品を使っているかわかり、口紅の色番号だけでどんな色なのか説明できる母を、『カッコイイな』と尊敬していました。そしてとても自分にはマネできないとも思っていました。いま母と一緒に仕事をしながら化粧品販売の面白さと難しさを毎日味わっています」
祐子さんはこう語る。
外販にはお母さんと祐子さん、そして従業員二人が出て行く。
それぞれが得意先になじみ客を抱えている。
病院のナースルームや工場の休憩室など女性が集まるところに行くが、勝負はもちろん昼休みの限られた時間だ。
「短時間勝負ですから、予習が大切。お会いできそうなお客様が前回なにを買い、次にどんな商品を説明したらよいか、シュミレーションを繰り返し必要なものをそろえて持っていかなければなりません。1時間の昼休みのうち、食事時間を除けばせいぜい30分、その間に大体5,6人に技術指導やカウンセリングをするので、1人あたり平均持ち時間5分です。ですから話すより先にお肌に触れさせてもらいます。肌に触ったほうが素早く今の状態がよくわかるからです。ただ肌の状態は一日の時間によっても変わるので、やはりその方のライフスタイルを理解していなければよりよいカウンセリングができません。そうしたことも予習で頭に入れておきます」
お客さんがぶらりとやってくる店ではないだけに、外販のときに来店を勧めてくるのもテクニックだ。
「毎月、DMセールや無料エステ会などを行い、外販先の方にもなるべくたくさんの方に来ていただくように促します。その時に外販の鍵となる「肌診断」を行ないます。肌の水分・皮脂・キメ・血行・透明感・毛穴・ハリ・弾力など詳しく肌チェックをさせていただき、そのデーターと生体のリズムを基にその方の肌リズムを見つけて美肌への傾向と対策を練ります。化粧品専門店の面白さは ひとりひとりのお肌をずっとお預かりできることではないでしょうか」
と祐子さんは語る。
いま祐子さんの心配はその外販先が減少していることだ。
「不景気で会社自体がなくなったり、日本人から外国人の従業員に変わってしまったりしているのです。高齢化もあり外販先も会社関係から個人宅へとシフトさせています。新規顧客獲得のために、ナイトエステをはじめたり、遠くのお客様にもメールでカウンセリングをして商品を送ることも始めました」
過疎地域で、人脈をしっかり構築してきた「きしかわ」
難しい時代ではあるが、お母さん譲りのこの「人脈術」があれば、必ず生き残れるに違いないと確信した。