西村晃の伝言板
2025-07-19
「AKI YASHIROは日本ではシンガーもやってるらしい」
一昨年亡くなった八代亜紀さんは、実力派歌手として「舟歌」「雨の慕情」など数々のヒット曲でも知られているが、実はもう一つの顔は「画家 八代亜紀」。
パリなど世界の画壇でも高い評価を受けて冒頭のようなささやきが聞こえていたという。
八代さんは画家志望であった父親の影響で小学生のころは将来画家になるつもりだった。父親も娘には画家になってもらいたかったという。子供のころから水彩画を描いていたが、やがて油絵の質感に魅せられ写実的な油絵を描いていた。フランス「ル・サロン」展に1998年から5年連続で入選し、日本の芸能人として初の正会員(永久会員)になった。本人は「歌うことも絵を描くこともエネルギーがいるけど、私の場合は歌という肉体労働で酷使した自分を、絵を描くことでマッサージしている感じ」と語っていたという。
いま私は八代さんの作品展の開催を呼び掛けている。自筆画はもちろんだがそれは数に限りがあるのでジークレーと呼ばれるデジタル複製画の展示、販売も薦めている。
ジークレーとは顔料インクなどを吹き付けて彩色した耐久性と表現力に優れたデジタル版画技法だ。リトグラフやシルクスクリーン版画との違いは、版を用いずに刷り上げるという点で、自筆画と並べても正直どちらが自筆画か素人には区別がつかないほど精巧な作品に仕上がる。そして予算や展示する場所の制約に合わせてサイズを大小選ぶことができるのもジークレーならではである。
先日帝国ホテルで開かれた展示・即売会では八代さんの作品10数点が並べられたが、訪れた人はこれが八代さんの作品かと驚くとともに、ジークレーの精巧さに皆目を見張っていた。
作品の中で特に人気を集めたのは9頭の白馬がこちらに向かってイキイキと走ってくる、その名も「馬九行久(うまくいく)」。会社の応接などに縁起を担いで購入する人が多い作品で、会場でも来年の干支、午年にちなんで購入しようという人もいた。
表現力に優れる人は歌を歌っても、絵を描いても秀でていることをあらためて感じる。