西村晃の伝言板
2025-10-19
日本の技術協力でいまインドに新幹線が建設中である。
日本はインドネシアで新幹線を売り込んでいたが中国にとられ何とかアジアで活路を拓きたいとインドでの受注に官民挙げて全力を尽くした。昨年モロッコに行きアフリカでも新幹線が走っているのをみて驚いたが、これはヨーロッパと中国からの技術供与であった。
新幹線の売り込みはライバルが多い。
鉄道というと新幹線に目が向きがちだが、私は今後日本の自動車産業に代わる輸出産業になりえるものは鉄道、特に通勤電車だと思っている。日本のように毎日何千万人という通勤通学客を電車で運んでいる国はない。しかもダイヤは恐ろしく正確だ。「本日は1分遅れて申し訳ありませんでした」と謝る国は世界にない。
とくに私鉄がここまで発達している国は皆無だ。
多くの国で鉄道と言えば国営または市営で、民間と言えば観光や鉱山採掘などに限られる。
そして日本の私鉄経営は鉄道の運行だけでなく、沿線の宅地開発や商業・ホテル開発、バスやタクシーに遊園地や劇場、スキー場など娯楽施設の開発・運営はもとより保育園から老人ホームまで経営するコングロマリット経営である。
つまり車両やレール、自動改札、信号機といったインフラの輸出にとどまらない幅広いエンジニアリング事業として位置づけられる。
これはアメリカにも中国にも真似のできないことなのだ。
私鉄経営の原型は阪急の創業者小林一三の発想であり、それを東急の五藤慶太、西武の堤康次郎、東武の根津嘉一郎らが受け継ぎ磨いてきた日本固有のビジネスである。
東南アジア諸国、あるいは将来のインド、アフリカはどこも都市部に人口が密集しており交通マヒが深刻だ。そこに日本の鉄道と沿線開発事業を移転すれば、日本企業のビジネスチャンスはもちろんのこと何より相手の国に喜んでもらえることは間違いない。
すでに東急などはベトナムで鉄道事業に参画し、ニュータウンや小売業の開発でも高い評価を得ている。かつて田園都市線沿線で行ったことがベトナムで再現されようとしている。
新幹線ばかりが輸出産業ではなく「私鉄を輸出する」という発想を日本はもつべきではないか。
22世紀に日本の鉄道と街づくりが世界に広まっているとすれば、高齢化で衰退するというだけの悲惨な未来ではないかもしれない。